未来の一場面

仕事を終えた女性が、友人たちとつくった海辺の街へ入る。「今日は駅前に雨の庭を増やしたい」と伝えると、AIがいくつかの案を示す。友人は図書館の窓から庭を眺め、別の友人は屋根の形を変える。一人ひとりが自分の世界をつくり、気の合う人とそこで時間を過ごすという未来を想像する。

この記事の道筋
  1. 言葉から、歩ける環境を生成
  2. 本誌の考察 自分の街に、友人を迎える
  3. 世界のルールも、一緒につくる
  4. 暮らしを試す場所が増える
  5. いつもの帰り道を、自分たちで決める

AIが操作できる環境を生成する研究を出発点にした未来考察。長く保存され、複数人が暮らす世界は本誌の想像。

言葉から、歩ける環境を生成

Google DeepMindは2025年8月5日、文章から操作できる環境を生成する世界モデルGenie 3を発表した。同社は、数分にわたり一貫性を保つ環境を示した。発表では、連続した体験時間や、複数の独立した参加者の複雑なやりとりを課題として挙げている。

2024年12月に発表したGenie 2では、1枚の画像を出発点に、キーボードやマウスで操作する環境を生成した。これらは、望む景色を伝えて、その中で行動するための技術的な出発点だ。街が長年保存され、多くの人が同じ場所に暮らす仕組みが完成したという報告ではない。

本誌の考察 自分の街に、友人を迎える

ここから、生成した場所を保存し、参加者が同じ状態を共有できるようになる未来を考える。窓の位置や木の成長、昨日置いた椅子が翌日も残る。家を増築した記録が他の人にも伝わる。AIが景色を生成する技術に、世界の状態を管理する仕組みが加われば、訪れるたびに続きのある場所をつくれるだろう。

女性は夕方だけ開く喫茶店を設計する。遠くに住む友人は、いつもの席に座って今日の出来事を話す。二人が会うための場所だから、壮大な城も精密な都市も必要ない。落ち着く窓辺と、話の邪魔にならない音があればいい。会話の途中で、遠くの島へ散歩に出ることもできる。

別の週末には、友人の設計した砂漠の街を訪れる。そこでは夜になると、住民が屋上へ集まって星図を描く。自分の好みに合う景色を眺めるだけでなく、他人が何を面白いと思うのかを、その人の世界で知る。招待されるたびに、相手の考え方を少しずつ理解する暮らしだ。

設計できる規模が広がれば、街の外にも自分たちの世界が続く。空中に浮かぶ島を渡り、二つの月が昇る海で船を出す。地球とは違う重力や季節を設定し、その中で庭や建物を育てる。現実の宇宙へ行く技術を待たずに、見たことのない惑星で日常を試すという想像だ。風景を眺める作品から、その風景の中で生活を重ねる作品へ進んでいく。

世界のルールも、一緒につくる

自由に設計できる対象は建物だけではない。小さな共同世界なら、住民が遊びのルールを決められる。競争のない市場、知らない人へ作品を贈る祭り、言葉を使わずに旅する一週間。AIに設定を伝え、参加者が試して話し合えば、価値観の違いを体験として確かめる場所になるかもしれない。

ある街では、誰でも中心広場に作品を置ける。別の街では、広場を毎月つくり替える。隣人と相談して街を変えるうちに、ただ便利な配置を選ぶだけでは済まなくなる。静かに暮らしたい人と、祭りを続けたい人が、どう一緒に過ごすかを考える。世界をつくる楽しみには、他人と折り合う面白さも含まれる。

家庭でも、自分たちの世界を共有する場面が増えるだろう。子どもが描いた家を、祖父母と一緒に歩く。背の低い窓や空へ延びる階段を見て、どんな暮らしを考えたのか聞く。大人が完成した遊びを与える時間から、家族が一つの世界を少しずつ育てる時間へ変わっていく。

暮らしを試す場所が増える

現実では簡単に変えられないことも、仮想の街なら試しやすい。交差点を減らした街、歩く速さが違う人が集まる街、昼と夜の長さが異なる街。どこで落ち着き、何に不便を感じるかを、友人と歩きながら話せる。街づくりに関心のなかった人も、自分の居場所を考える入口を持てる。

生成した世界が現実の物理や人の行動を正確に再現するとは限らない。そこから現実の建物や制度を変える際には、実測や実験で確かめる必要がある。それでも、案を図面のまま見るより、仮の場所に入り、互いの好みを説明する機会は増えるだろう。

創作する人にとっても、作品の渡し方が変わる。小説家は物語の街を読者に開き、音楽家は曲ごとに景色が変わる会場をつくる。訪れた人が枝道を加え、別の作者がその先に村を築く。作品が次の作品の場所となり、参加した人の記憶も積み重なっていく。

いつもの帰り道を、自分たちで決める

こうした世界を楽しむために、意識を機械へ移す必要はない。画面やヘッドセットを通じて訪れ、夕食の支度や現実の散歩に戻る。現実の生活を続けながら、もう一つの集まる場所を持つ。そこで何を変えられ、何を残せるかが、長く通いたくなる世界を左右するだろう。

夜、女性は喫茶店の明かりを消す。庭の雨は友人の希望で、もう少し続けておく。明日はそこへ新しい人を招く予定だ。世界をつくる道具が身近になった先で増えるのは、無数の景色に加え、「ここで一緒に過ごそう」と言える場所なのかもしれない。

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