もし月曜日の朝、家賃や食費を心配せずに予定を決められたらどうなるか。午前は海辺で生き物を調べ、午後は仲間と映画を撮る。今月は何も決めず、ただ休む人もいる。生活のために仕事を続ける必要が薄れ、一日の使い方を自分で選べる未来を想像する。
ロボット研究と所得保障の実験を出発点にした未来考察。働かなくても暮らせる社会と、登場する生活場面は本誌の想像。
研究の現在地 AIが物を扱う
Google DeepMindは2025年3月、ロボットを制御するAIモデル「Gemini Robotics」を発表した。同社は、日常の言葉による指示への対応や、折り紙など細かな操作を研究例として示した。画面の中で答えるAIから、周囲を見て物を扱うAIへ進もうとしている。あらゆる仕事を任せられる段階に達したという発表ではない。
所得を仕事から切り離す制度も、すでに実験の対象になっている。フィンランド政府の広報資料は、2017〜18年のベーシックインカム実験について、雇用への効果は小さく、本人が感じる経済的な安心や精神面の状態は改善したと紹介する。限られた実験から、誰も働かない社会の姿まで分かるわけではない。
本誌の考察 暮らしを支える二つの条件
ここからは本誌の想像だ。AIとロボットが食料の生産、住宅の建設、物流や設備の保守を広く担い、必要な物を少ない人手で安定して届けるようになる。そのうえで、公共サービスや所得保障、共有する生産設備などを通じ、誰もが住まい、食事、学びを利用できる制度が整う。供給の進歩と成果の分配がそろって初めて、働くことの必須性は下がる。
その社会でも、人が引き受ける仕事は残るだろう。誰かの相談に乗る人、店を営む人、技術を磨く人もいる。違いは、仕事を断ると暮らせなくなる圧力が弱まることだ。収入の少ない挑戦を続ける人と、働くことが好きな人が、同じ町で暮らせる。
夢中になるまで待てる
最初に増えるのは、目覚ましい作品より、何も急がない時間かもしれない。寝不足を解消し、家族と食事をし、近所を歩く。何かを成し遂げる予定がなくても住まいを失わないなら、人は休む理由を誰かに説明せずに済む。夢中になれる対象を見つけるまで待つことも、一つの選択になる。
やがて、昔あきらめたことを試す人が出てくる。中学生の頃に好きだった天文観測を再開する。楽器を手に取り、数年かけて一曲を仕上げる。AIの家庭教師や制作の道具が身近になれば、初心者が基礎を学ぶ負担も小さくなる。時間と学ぶ手段の両方を得た人は、興味を持っただけで終わらず、実際に手を動かせる。
趣味を収益に変える必要も薄れる。毎晩、数人の友人に聞かせるために物語を書く人がいる。人気が出なくても、途中でやめても、生活は続く。完成品の評価に急かされず、好きな過程を長く楽しめることは、作品を自動生成できる時代の豊かさにもなりそうだ。
町が実験と冒険の場所になる
関心の近い人が集まれば、個人の遊びは共同の計画に育つ。空き店舗を工房にして、子どもと大人がロボットを組み立てる。海の環境を調べたい仲間が観測船を共有する。AIが設計や解析を助け、生活費を稼ぐための時間が減れば、市民が数年をかける研究や制作も増えるだろう。
さらに先には、利益を急がない長い冒険がある。失われた言語を学び、古い歌を残す。森を育て、その変化を何十年も記録する。宇宙を目指す仲間が訓練を積み、遠い観測拠点で暮らす準備を続ける。今は一部の専門家に限られる活動に、別の経歴を持つ人が加わる。人類が何を知り、何を作るかを選ぶ参加者が増える未来だ。
肩書の外で人と出会う
人の集まり方も変わりそうだ。会社や職種を聞く代わりに、最近は何に時間を使っているかを尋ねる。去年は川を調べていた人が、今年は演劇を始める。世話好きな人は近所の子を見守り、静かに過ごしたい人は庭を育てる。所属や実績が少なくても、顔を知る相手や居場所を持てる町が欲しい。
退屈も競争も消えないだろう。夢中になれる人と、何をしたいか分からない人がいる。だから学校や図書館、工房、運動場のように、試しに参加できる場所が生活基盤の一部になる。人と会い、少し試し、合わなければ離れる。その繰り返しから、思いがけない楽しみが見つかる。
夕方、工房を出た人が、海辺で生き物を調べていた仲間と落ち合う。成果が出なかった日も、翌日の食卓は心配しなくてよい。働かなくても暮らせる未来の魅力は、全員が偉大な創作者になることに尽きない。自分の時間を使って、何に夢中になりたいかを何度でも探せることにある。




