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健康・医療創薬

脳回路から創薬標的を探すAI、マウス実験で候補を検証

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ニュースの要点

米Exin Therapeuticsの研究者が、脳の異常な活動から治療の標的を探すAI基盤「CircuitATLAS」の論文を公開した。AIが選んだATP1A3をマウスの神経細胞で増やすと、急性刺激による電気活動の増加が抑えられた。

マウスの体性感覚野の神経細胞を共焦点顕微鏡で撮影した2019年の資料写真。
画像の権利情報

米Exin TherapeuticsのGabriel Ocana-Santero氏とMarko Tvrdic氏は10月7日、脳回路の異常な活動から創薬の標的を探すAI基盤「CircuitATLAS」の論文をarXivに公開した。AIが選んだ標的の一つをマウス実験で検証した。研究は査読前の段階にある。

CircuitATLASは、病気、脳の電気活動、神経回路、細胞、分子の関係を出典付きでつないだ知識グラフを使う。基本のグラフには約383万の項目と約766万の関係があり、約531万の関係を大規模言語モデルで抽出・確認した。病名と遺伝子やタンパク質を直接結ぶ関係は標的探索から外し、異常な活動をどこから調節できるかをたどる設計とした。

検証した標的はATP1A3だ。神経細胞の内外でナトリウムとカリウムを移動させるポンプの一部を担う。研究者はマウスの体性感覚野で、主に神経の活動を抑える介在ニューロンにATP1A3を発現させた。比較には同じ経路で対照用の遺伝子を届けたマウスを使い、薬剤4-アミノピリジンによる局所的な急性刺激への反応を測った。

刺激前後を比較できたマウスは対照群5匹、ATP1A3群6匹だった。ベータ帯の電気活動が刺激後に何倍になったかの中央値は、対照群の11.16倍に対しATP1A3群は1.33倍だった。低ガンマ帯と高ガンマ帯でも増加を抑えた。研究者は、抑制性の細胞でATP1A3を増やすと、刺激による皮質の過剰な興奮を和らげるとの仮説を支持する結果とした。

続いて、研究者はATP1A3に結合すると予測した250の小分子候補を計算で選んだ。

この研究が示したのは、文献の関係をたどって仮説を作り、動物で調べ、次に必要な実験まで絞る流れだ。動物実験の開始には人の承認を置く。標的探索の成功率や専門家との比較、人の病気でも同じように働くかは今後の検証に残る。

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要点

脳の異常な活動から、調節に使えそうな分子を探すAIの研究だ。

脳の活動からたどる治療の手掛かり

CircuitATLASは、脳の活動をどこから調節できるかを探すAIだ。脳では神経細胞がつながり、電気信号をやり取りしている。このつながりが神経回路にあたる。AIは文献をもとに、異常な電気活動から関係する回路や細胞をたどり、その働きを変えられそうな分子を選ぶ。病気を起こした原因そのものとは別の場所にも、治療の手掛かりを探す発想だ。

探索には、病気、電気活動、回路、細胞、分子の関係を出典付きでつないだ「知識グラフ」を使う。候補を選ぶ理由を、元の文献に戻って調べられるようにしている。

マウスで確かめた変化

今回のマウス実験では、AIが選んだATP1A3を、主に神経の活動を抑える細胞で増やした。ATP1A3は、細胞の内外でナトリウムとカリウムを運ぶポンプの一部だ。遺伝子を導入したマウスでは、4-アミノピリジンという薬剤で急に刺激したときの電気活動の増加が抑えられた。比較は計11匹で行った。研究は査読前の段階にある。

計算で選んだ250の分子候補

その後に選んだ250の小分子は、ATP1A3に結合しそうだと計算で予測した候補だ。

この記事に出てくる用語を確認する
神経回路
神経細胞がつながり、信号をやり取りするまとまり。この研究では、異常な電気活動に関わる回路から、調節する場所を探す。
知識グラフ
情報同士の関係をつないで、たどれるようにしたデータ。この研究では、病気や細胞、分子などの関係に出典も付けている。
ATP1A3
神経細胞の内外でナトリウムとカリウムを運ぶポンプの一部を担う。今回のマウス実験では、遺伝子を導入して主に神経の活動を抑える細胞で増やした。
解説の参考資料

本誌の考察

病名を越えて、脳の活動から治療を探す

脳の病気を治す方法は、病気の原因そのものに働きかける方法だけとは限らない。異常な活動を別の場所から調節する道もある。今回のAI「CircuitATLAS」は、候補を探す際に病名と遺伝子の直接の関係を使わず、神経のつながりや細胞をたどった。本誌はこの研究の進め方に注目する。

この方法を広く確かめられれば、病気の原因を調べる研究と並行して、別の場所から状態を改善する方法も探せるようになる。以下は、ほかの研究者も同じ方法を試して確かめ、複数の研究所で使えるようになった未来の話だ。

どの細胞に、どんな条件で働きかけると、脳の活動がどう変わったか。効果がなかった実験も同じ形式で残せれば、AIは文献と実験結果を比べ、次の候補を提案できる。朝の研究会では、候補の名前に加え、「この結果なら仮説は間違いかもしれない」「次はこの条件で試す」といった資料が並ぶだろう。

実験が積み重なると、病名は違っても、神経のつながりに似た乱れを持つ人たちが見つかるかもしれない。そこで同じ調節方法が使えるか、病気ごとに調べる研究が生まれる。患者数の少ない病気でも、ほかの病気で得た知識を手掛かりに、何をどう試すか考えられる可能性がある。

診察室の選択肢が変わるには、さらに先の検証が必要だ。狙った神経の働きを調節する薬を開発し、人での安全性と効果を確かめる。患者ごとの神経活動を測ることが、治療選びに役立つかも調べなければならない。

そこまで進めば、医師と患者は検査結果だけでなく、日中の眠気や授業への集中も記録して相談できるかもしれない。「どの働きを、どう調節すれば暮らしがよくなるか」を一緒に考える診察だ。

患者が診察前に一週間の暮らしを記録し、医師が変化を確かめ、研究者が次に調べる問いを得る。本人の同意のもとで、改善した点も困った点も研究に戻していく。「午後も授業に参加したい」という願いが、次の実験の条件につながる。取り戻したい一日の過ごし方から研究を始める医療も、その先にはあり得る。

参考資料

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